教育・子育て
[改装版]走れ! 児童相談所 ー発達障害、児童虐待、非行と向き合う、新人職員の成長物語ー
- ISBN 978-4-88416-301-3
- 四六判 カバー付並製 312ページ
- 2023年10月
2023年11月発売
2016年8月にメディアイランドから発売された『走れ!児童相談所』を
アイエス・エヌから装丁を変えて再発行し、せせらぎ出版が引き継ぎました。
今も愛される本書。内容は同じです
小説を読みながら児童相談所のことを学べる1冊!
三和県庁に勤める里崎は人事異動により、児童相談所勤務を命じられた。
そこで、初めて発達障害や児童虐待の実態に直面し、事の重大さに狼狽する。
次々と訪れる問題を抱えた家族や子どもたち。先輩たちとぶつかり合い、励まされ、
少しずつ成長する里崎の前に、深刻な虐待案件が待ち構えていた……
本書は、児童福祉司である著者が、体験もとに児童相談所の日常を描いた物語です。
困難にもかかわらず、明るくポジティブな職員の姿を通して、児童相談所の現状や課題を浮き彫りにします。
本書で取り上げる出来事や事件
・事務職がケースワーカーとして成長する経緯
・所内研修などで技術やノウハウの習得に奮闘
・発達の遅れが見られる子どもの親子面接での戸惑い
・バイクを盗んだ非行少年の更生に向けた支援
・ゴミ屋敷と化したネグレクト家庭のエンパワメント
・発達障害児と保護者の苦悩
・過酷な身体虐待と身体を張った救出
・里親制度による被虐待児への支援
目次
人事異動
言い知れぬ憂鬱
ケースワーカーとして
小さな手のひらのために
初回面接への道
ロールプレイ
魔術師
戦慄の家庭訪問
頼れる女
職権一時保護に向けて
揺れる思い
SOSAを使え
悲しい虐待
クリスマス・イブの立ち入り調査
前書きなど
この度、『走れ!児童相談所』が再版されることは、私にとって、この上ない喜びである。
この小説は、児童相談所の本当の姿を広く世間の方々に知っていただきたいという思いと、児童相談所で日々奮闘する職員へのオマージュをこめて綴ったものだ。
出版後、現役の児童相談所の職員の方々をはじめ、児童相談所についてはほとんど知らなかったとおっしゃる一般の方々に至るまで、多くの方々から共感のメッセージをいただいた。そうしたメッセージのおかげで、児童相談所の活動をより一層深く掘り下げた、続編である『光に向かって』が出版されるに至ったことにも、心から感謝している。
さて、本書が出版されて以降、法律の改正等が次々に施行された。児童相談所の職員の大幅な増員等、児童相談所の機能強化を図るために様々な手立てが加えられてきたところである。こうした動きは、マンパワー不足で疲弊する児童相談所を援助するうえで、確かに大切な動きであると思う。しかしながら、児童相談所において、しっかりと活動できるケースワーカーを育てるということは容易なことではない。
なぜなら、児童相談所のケースワーカーは、座学研修を何日か受講したからといって、すぐに務まるものではないし、資格取得者だからといって、すぐに児童相談所の独特なケースワークができるわけでもないからだ。
児童相談所でしっかりと活動できるケースワーカーになるためには、実践的な研修が絶対的に必要である。
私自身も、一般行政職として児童相談所に異動となり、座学研修はもちろん、先輩ワーカーの面接に同席させていただいたり、家庭訪問に同行させていただいたり、職権による一時保護や、立ち入り調査等、様々な現場に同席・同行することを繰り返し、やっとの思いで児童相談所独特のケースワークを徐々に習得していった経験を持っている。
初めて児童相談所に配属された未経験者が、しっかりと働けるケースワーカーになるには相当な実戦的経験が必要なのである。
現在、全国的に児童相談所に多くの一般行政職が配属されているが、彼らの多くは、私が経験したようなしっかりとした実践的研修を受けぬままケースワーカーとして働いている。これがどれほど精神的に過酷なことかは容易に想像できる。
こうした状況は経験の浅いケースワーカーにとっても、クライエントにとっても不幸な状況を生み出すことになりかねない。マンパワーの強化につなげるためには、児童相談所に配属された未経験者が、配属された児童相談所において、実践的な研修を積みながらケースワーカーとして独り立ちできるようなシステムが必要だ。そうしたシステムを機能させるための、新しい組織作りを今の児童相談所は求めていると思う。現場の困窮にしっかりと耳を傾け、ワーカーがバーンアウトしないような健全な組織づくりこそ、喫緊の課題だろう。
その意味でも児童相談所のケースワーカーとはどのようなものかを多くの人々に知っていただくことが大切である。
この小説が児童相談所のケースワーカーの仕事について、一人でも多くの人々に知っていただくための一助となることを切に願う。
2022年1月
安道理
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安道 理 (アンドウ サトシ)
現役の公務員で元児童福祉司。安道理はペンネーム。
一般行政職(事務職)として地方公共団体に入庁。いくつかの部署を経て、児童相談所に異動。そこで業務内容の特殊性、危険性、そして、過酷な状況に曝される子どもたちの現実を目の当たりにし、強い衝撃を受け、人生観が一変する。異動後、ケースワーカーとして必要な面接技能等の研修を受けながら、児童福祉司免許を取得。過酷な現実に心を痛める一方で、立ち直っていく家族の感動的な姿にも触れたことで、児童相談所を最も過酷で最も感動的な職場と感じるようになる。その本当の姿を広く伝えることで、児相の職員や、福祉をめざす若者を勇気づけ、さらに悩める親子を児童相談所に導くことに繋がると考える。
なお、現在は児童相談所から一般行政職に異動になっている。それに伴い肩書きも「元」児童福祉司とした。